たとえば、事務所で隣の席の人が、ChatGPTに見積のメールを書かせていたとします。 のぞいてみると、取引先の会社名も品番も、そのまま貼り付けているようです。 止めたほうがいいのか、何を決めておけばいいのか。 聞かれても自分には答えがない。そんな場面を思い浮かべてください。
私は2023年から、生成AIを有料プランで実務に使っています。 生成AIとは、文章で指示すると、文章や表などを作って返すAIのことです。 最初のルールは、現場の人が覚えていられる5つで足りると私は考えています。
最初のルールは5つに絞ります。決めたサービスだけを使う、個人情報と会社の秘密は入れない、答えは人が確かめる、迷ったら聞く、です。これは私の提案です。
5つのルールは、Wordのひな形にしてあります。空いている欄を埋めれば、社長に見せる案になります。
もとにした国の資料は、記事の後ろのほうで、出典リンクと一緒に紹介しています。
生成AIの社内ルールは、最初は5つに絞る:サービスを決める・入れない・確かめる・聞く
最初に決めるルールは、次の5つで足りると私は考えています。
| 番号 | ルール | 守る場面 |
|---|---|---|
| ルール1 | 会社が決めたサービスだけを使う | 使い始める前 |
| ルール2 | 個人情報は入れない | 入力する前 |
| ルール3 | 会社の秘密は入れない | 入力する前 |
| ルール4 | 答えはそのまま使わず、人が確かめる | 答えを使う前 |
| ルール5 | 迷ったら入れる前に聞く。困ったらすぐ知らせる | いつでも |
この5つは、国の資料がそのまま示しているものではありません。国の資料にある注意点をもとに、現場で守れる数に絞った私の提案です。
条文を並べた規程より、覚えていられる数にする
絞る理由は、読まれない決まりは守られない、と私は考えるからです。
たとえば、組立の現場で、作業の合間に生成AIを使う人がいたとします。 その人が、入力のたびに何枚もある規程を開くとは考えにくいです。
5つなら、朝礼で読み上げられます。 足りない点が出てきたら、使いながら足していきます。
入力する前のルール:決めたサービスだけを使い、個人情報と会社の秘密は入れない
入力する前に守ることは3つです。 どこに入力するかと、何を入力しないかを決めます。
ルール1:会社が決めたサービスだけを使う
使ってよい生成AIのサービスは、会社が決めて、名前をルールに書きます。 社員が一人ずつ利用規約を読むのは、現実には難しいと私は考えるからです。 担当者が次の点を確かめてから、使ってよいサービスを決めます。
- 利用規約で禁じられている使い方は何か
- 入力した内容が、AIの学習に使われるかどうか
- 使うアカウントは、会社のものか、個人のものか
学習とは、AIの性能を上げるために、データを読み込ませることです。 アカウントとは、サービスを使うための登録のことです。
たとえば、ひな形の表に、サービスの名前、使うアカウント、学習に使われるかどうかを書きます。 確かめた日と、確かめた人も書きます。 表に無いサービスや、表に無いアカウントで使いたい人は、先に担当者に相談します。


文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」は、利用規約について次のようにしています。 あらかじめ確かめ、それに従って使うことが「必要です」。 著作権を侵害するおそれのある使い方を、利用規約が禁じている場合があるためです。
ルール2:個人情報は入れない
お客様、取引先の担当者、社員の、氏名、電話番号、メールアドレス、住所は、入力しないと決めます。
入力のたびに、入れてよい範囲かを現場で確かめるのは難しい、と私は考えます。 だから最初は、入れないと決めてしまうほうが守りやすいはずです。
たとえば、お客様から届いたメールへの返事を下書きさせたいとします。 氏名や電話番号の部分は消すか、「担当者」のような言葉に置き換えてから入力します。
個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」に、個人情報取扱事業者に向けた注意点があります。 個人情報を入力する場合は、利用目的に必要な範囲内かを十分に確認する、などです。 入力を一律に禁じる記述は、この注意喚起にはありません。
個人情報取扱事業者とは、個人情報を検索できるように整理して、事業に使っている者のことです。 この定義は、同じ委員会のガイドライン(通則編)にあります。
ルール3:会社の秘密は入れない
取引先の会社名、品番、図面、単価、見積の金額は、入力しないと決めます。
AI事業者ガイドライン(第1.2版)の本編は、総務省と経済産業省が出している指針です。 AIのサービスに「機密情報等」を不適切に入力することがないよう注意を払う、とあります。 何が機密情報にあたるかの説明は、本編には見当たりませんでした。
そこで、何を入れないかは、会社が決めてルールに書いておきます。 上に挙げたものは国の見解ではなく、製造業で働いてきた私の提案です。
たとえば、仕入先への見積依頼を下書きさせるとします。 仕入先の会社名と品番は「○○」に置き換え、金額は書かずに入力します。
数量と日付は、ひな形の表に入れていません。 取引先との取り決めで外に出せない場合は、表に足してください。 表に無い情報で、入れてよいか迷うものは、入れる前に聞きます。
「秘密」とだけ書くと、人によって受け取り方が変わります。ひな形の表には、入れないものを1つずつ名前で書いてください。
答えを使う前のルール:人が確かめ、迷ったら聞く
答えは下書きとして受け取り、人が確かめてから使います。 迷ったときに聞く相手も、先に決めておきます。
ルール4:答えはそのまま使わず、人が確かめる
どの答えも、元の資料と合っているかを確かめます。
たとえば、納期の回答メールを下書きさせたとします。 まず、答えを最後まで読み、注文書と合っているかを確かめます。 数量や日付が出てくるなら、1つずつ見比べます。 頼んでいない条件や説明が足されていないかも見ます。 会社名、品番、金額は入力しないルールなので、あとから自分の手で書き入れます。


AI事業者ガイドラインの本編は、AIを使う事業者にとって重要な事項を挙げています。 AIの出力は、精度とリスクの程度を理解し、リスクの要因を確認したうえで使う、というものです。
チラシ、ホームページ、取引先に渡すカタログなど、社外に出すものは、出す前に次のこともやります。 「表の相手」とは、ひな形のルール5の表で、「答えを使ってよいか迷ったとき」の相手に決めた人のことです。
- 似た文章や画像がすでに無いかを、インターネットの文章検索や画像検索で確かめる
- 似たものが見つかったときは、そのまま使わず、表の相手に聞く
- 上司が、検索した結果と中身を見る。上司にあたる人がいない場合は、表の相手が見る
- 社外に出してよいかは、上司(いない場合は表の相手)が決める
文化庁の資料は、使う前に、まず既存の著作物と似ていないかを確かめることが「必要です」としています。 確かめ方の例には、インターネットでの文章検索や画像検索が挙がっています。 検索と上司の確認を社外に出すものに決めたのは私の提案で、資料が社外に出すものだけでよいとしているわけではありません。
作った本人が表の相手である場合は、ほかの1人が見て、決めます。 社外に出すものにあたるか迷うときは、使う前に表の相手に聞きます。 取引先あてのメールを社外に出すものに入れるかは、会社で決めて、ひな形の例に書いておきます。
生成AIに作らせた画像や図が、知っているものに似ていると感じたときは、社外に出さないものでも、使う前に表の相手に聞きます。
AIとの付き合い方そのものに迷いがある方は、AIは敵か味方かを考えた記事もあわせてどうぞ。
ルール5:迷ったら入れる前に聞き、困ったらすぐ知らせる
聞く相手と知らせる相手を決めて、名前をルールに書きます。
相談先が書かれていないと、迷った人は自分で判断するしかありません。 たとえば、取引先の会社名が入った文面を、うっかり入力したと気づいたとします。 そのとき、だれに言えばよいかで止まってしまいます。
だれに言えばよいかが決まっていれば、迷ったときも、困ったときも、すぐに知らせやすくなります。
知らせるときは、いつ、どのサービスに、何を入れたかを伝えます。 知らせを受けた人が、何が起きたかをつかみやすくするためです。
AI事業者ガイドラインの本編は、開発・提供・利用のすべてに共通する指針を挙げています。 その中に、「必要に応じ」責任者を設定する、とあります。
5つのルールのもとにした国の資料と、出典のリンク
5つのルールに関わる主な国の資料は、次の4つです。
| 資料 | 出したところと時期 | 何の資料か |
|---|---|---|
| AI事業者ガイドライン(第1.2版)の本編と別添 | 総務省・経済産業省、2026年3月 | AIを開発・提供・利用する事業者に向けた指針。法律ではない |
| 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について | 個人情報保護委員会、2023年6月 | 生成AIに個人情報を入力するときの注意点 |
| 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) | 個人情報保護委員会、2026年6月に一部改正 | 個人データを扱う事業者一般に向けた資料。生成AIの資料ではない |
| AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス | 文化庁著作権課、2024年7月 | 著作権の面でリスクを減らす取り組み |
自社がそれぞれの資料の対象にあたるかは、この記事では結論を出していません。 判断がつかないときは、専門家に相談してください。 社内のルール作りについての細かい記述は、下にまとめました。
国の資料は、社内のルール作りをどう書いているか
文化庁の資料は、著作権の侵害を防ぐ予防措置に、生成AIの利用についての内部的なルール作りなどを挙げています。こうした措置をとることが「望まれます」という書き方です。出典:文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」
同じ資料は、示した方策をすべてやれば法的責任を問われない、という意味ではないとしています。すべて記載どおりにやらなければ直ちに法的責任が生じる、という意味でもないとしています。出典:同じ文化庁の資料
AI事業者ガイドラインの別添(付属資料)は、自社のAIの方針を「設定するか否かについて検討し、設定する」としています。別添は本編の方向性を達成する「手段の一例」です。すべてを記載どおりにやることが求められているものではない、という位置づけです。出典:AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添
通則編は、個人情報取扱事業者について「個人データの具体的な取扱いに係る規律を整備しなければならない」としています。これは個人データの取扱い全体の話で、生成AIの利用ルールのことではありません。出典:個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)
規律とは、取扱いの決まりのことです。個人データとは、検索できるように整理した集まりに入っている個人情報のことです。出典:通則編
ひな形を自社用に書き換えて、社長に見せるまでの手順
ひな形は、空いている欄を埋めれば、自社のルールの案になります。
ひな形はWordのファイルで、中身はこの記事の5つのルールと同じです。 自社の就業規則などと照らし合わせ、必要に応じて専門家に相談してから使ってください。 ひな形のルールを守っても、著作権などの問題が起きないとは限りません。
今の使われ方を聞く
だれが、どのサービスを、何の仕事に使っているかを聞きます。ルールを実際の使い方に合わせるためです。
ひな形の欄を書き換える
会社名、対象、使ってよいサービスとアカウント、入れてはいけない情報、聞く相手を書きます。書き方は、ひな形の最後の「書き換えのしかた」にあります。
対象は「パート・派遣・役員を含め、会社の仕事で生成AIを使うすべての人」にしてあります。自社に合わせて変えられます。
就業規則などと照らし合わせる
すでにある決まりと食い違うところがないかを見ます。判断がつかない点は、専門家に相談します。
社長に見せて、決めてもらう
書き換えたひな形と、今の使われ方のメモを持っていきます。決まったら、決めた日と決めた人をひな形に書きます。
社員に配る前に、「書き換えのしかた」の部分を消します。題名の「(ひな形)」、いちばん上の注意書きの初めの2文、ページの下(フッター)の「ひな形」も消します。
ルールを守らなかったときの扱いは、ひな形に入れていません。 入れるかどうかは、自社の就業規則と照らし合わせ、専門家に相談して決めてください。
決めたあとは全員に伝え、時期を決めて見直す
ルールは、決めたら全員に伝え、見直す時期もひな形に書いておきます。
私なら、最初は朝礼や回覧で5つのルールを伝えるところから始めます。 見直しでは、たとえば入れてよいか迷った情報が出ていたら、表に足します。
指示の書き方も一緒に伝えたい方は、以前に書いたChatGPTのプロンプトの書き方とコツも参考にしてください。
まとめ:5つに絞り、欄を埋めて、社長に見せる
- 最初のルールは5つに絞ります。決めたサービスだけを使う、個人情報と会社の秘密は入れない、答えは人が確かめる、迷ったら聞く、です。
- 社外に出すものは、出す前に似たものが無いかを検索し、上司が見て、出してよいかを決めます。迷うときは、使う前に聞きます。
- ひな形の欄を書き換え、就業規則などと照らし合わせてから、社長に見せて決めてもらいます。
Next Creationsでは、中小製造業向けのホームページ制作・改善や、業務システムの個別開発をお受けしています。 ルールを作る途中で、今の仕事の流れのどこに生成AIを使えるかで迷ったら、メモ書きのままでも構いません。 info@next-creations.jp までお気軽にご相談ください。

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